やわらかい風と、はしりの桃。

“はしり”の食材には、特別な魅力がある。
まだ数が少なく、味もどこか未完成。でもその分、生命力に満ちていて、料理人としては毎年そわそわする存在だ。

6月、私は毎年、岡崎の果樹園を訪ねる。お目当ては、早生(わせ)の桃。一般的な桃よりも一回り小さく、やや硬めで、香りも控えめ。その代わり、キュッと引き締まった酸味がある。これが前菜や白身魚と、絶妙に合う。

今年はこの桃を、三河湾の真鯛のカルパッチョと合わせてみた。
薄くスライスした桃と真鯛を交互に並べ、上からミントと白バルサミコのヴィネグレットを。ほんのり桃の甘み、魚の旨み、そしてハーブの爽やかさが重なり合う、初夏らしいひと皿になった。

「え、桃って前菜になるんですね」
そんな驚きの声が聞こえると、私は少しだけ心の中でガッツポーズをする。

料理は、季節を味わうだけでなく、季節に驚くものでもあると思う。
初夏の風と一緒に、ほんの少しのサプライズをお届けできれば、それがLe Terroirの喜びです。

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